10年

親友と呼べるかどうかは分からない。ただお互いに絶対に裏切られないという自信みたいなものはあったと思う。それはむしろ戦友なのかもしれない。

10年前。ひとりの戦友を永遠に失った。いつかくるとは思っていたけども、いざそのときがくると現実を受け入れることができなかった。ただ悲しいとかいうよりもほっとしたという思いの方が強かったように思う。強く強く前を向いて生きているのにそのすべてを拒み続けた世界。彼女が生きていくにはこの世のすべては冷た過ぎた。

出会いはインターネット。おそらく15年ほど前。BBSへの書き込みが始まりだった。当時ネットサーフィンが趣味と言っても過言ではないくらいに毎夜インターネットを駆け巡っていた俺。同じような境遇の人を見つけてはBBSに書き込みをしていた。彼女はその中のひとりだった。文章でのやりとりだったけども、とにかく価値観が近かった。極度の躁鬱。今ほどこういう病気に寛容ではなかった世界。そんな世界で彼女は常に前を向いていた。「頑張り過ぎるなよ」と声をかけたくなるくらいに(いや実際には何度か言った気がする)日々全力投球だった。

それでも症状がひどくなるとすぐに大量に投薬しこの世と決別しようとした。けれども、そんなことで簡単に終われないことも彼女自身よく分かっていた。分かっていたと思う。投薬のたびに励ますというより怒りに近い感情で話をした。それはお互いノーガードで殴りあうくらいの討論に近いものだった。何が正しく何をすれば普通に生きていけるのか。さらにはその普通とはなんなのか。自分たちには何が足りないのか。そのすべてを受け入れてその中で上手く生きて行く方法を見つける。そんな話を繰り返した。

オフ会には出ない。対面が苦手な俺はそれをまるで家訓のごとく守っていた。いや自分を守っていた。それでも彼女とは一度だけ会った。経緯は覚えていない。「黒幕は次なに唄うん?」まっすぐこっちを向いた彼女は驚くほど普通の人だ。やたらと感受性が強いという以外は本当に普通の人だ。他人を気遣ったり心配したり。夢を語ったり。何も変わらないのにこの不安定感はなんだろう。

日頃の連絡方法は基本的にはBBSへの書き込み。固有名詞や地名が出そうな場合はメール。現状報告とかこれからやりたいこと。そんな未来の話が多かったように思う。そして叶ったこともいくつかある。お互いに生きる勇気を共有できていたかどうかは分からないけども、俺としてはそういうものをもらっていたような気がする。頻繁に連絡を取っていたわけではない。毎週連絡するときもあれば半年くらいあくときもある。なので彼女の彼氏から数年ぶりに電話をもらったときも特段普通のことだった。けれどもその電話で悲報を知ることになる。一瞬時間が止まったような感じがした。事態を受け入れることができない。けれども悲しいとは少し違う。悲しいというよりも俺は少しほっとしている。彼女が生きていくにはこの世のすべては冷た過ぎた。あんなにも真っ直ぐにあんなにも努力をしていた人がなぜ報われないのだろう。この世はズルしないと上手くいかないのだろうか?努力ではなくなにかコツのようなものを得ないと上手くいかないのだろうか?

あれから10年。もう10年。まだ10年。普通って結局なんだったんだろう。結局なんなんだろう。

ストリートの黒幕

今日からあなたが居ない世界 今から僕は要らない世界

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